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経営の新潮流

ザッポスでのホラクラシーの今とティール組織との繫がりを簡単解説!

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「Natural Organizations Lab 株式会社」共同創業者の吉原史郎は日本初の「*ホラクラシーライセンス プロバイダー」です。
*「ホラクラシー」を開発したHolacracy One社のアセスメントで認定コーチになり、ライセンス契約を結んだ人が、ライセンスプロバイダーとして、「ホラクラシー」に関するサービスを提供することが”法的”に可能となります。

みなさんの中には、「ザッポスってよく聞くけど、どんな組織なのかな?」、「ザッポスってホラクラシーを導入したみたいだけど、失敗しちゃったのかな?」、あるいは、「ザッポスは、最近よく聞く、ティール組織なのかな?」等と感じている方もいらっしゃることと思います。

この記事では、執筆者がご縁を頂いてザッポスさん(以下、ザッポス)に1週間弱滞在させて頂き、ザッポスでのコアバリュー(後述)を軸にした経営や、ホラクラシー導入の現状について、色々な方にお話を聴き、現場を見させて頂いた中で学んだことを記載しています。

限られた時間ではありますが、トニー・シェイさん始め、ホラクラシー導入に当初からご尽力された皆さまにサポート頂きながら、学びを得ることが出来ました。

今回のレポートでは、主にザッポスの経営の人と組織の側面(特に、ホラクラシー導入について)に焦点を当てて、要約的に記載しています。
引き続き、丁寧なリサーチを継続させて頂くことを考えており、詳細版のレポートも記載させて頂きます。

本レポートの記載にあたっては、以下の3点に焦点を当てています。
①ホラクラシー導入前のザッポスの特徴
②ホラクラシー導入による変化
③ティール組織というレンズからのザッポス

結論を先にお伝えしますと、ザッポスにおいて、ホラクラシー既に当たり前の仕事の仕方になっており、とても効果を発揮している状態であるということです。

ザッポスのカルチャーをホラクラシーが壊しているということはなく、仕事の方法としてザッポスのカルチャーに組み込まれている状態です。この状態を可能にした要点を簡単ではありますが、本記事においてお伝え出来ればと思います。

尚、「ホラクラシー」自体の説明については、こちらのレポートを、「ティール組織」につきましては、こちらのレポートにそれぞれ、概要を記載していますので、本記事の背景理解用として読んで頂ければ幸いです。

目次)
1 ザッポスとは
2 ホラクラシー導入前のザッポスの特徴
3 ホラクラシー導入による変化
4 ティール組織というレンズからのザッポス
5 ザッポスのこれから
6 まとめ

1 ザッポスとは

ザッポスとはアメリカのラスベガスに本社がある、靴をメインにしたECサイトを運営している会社で、社員数が約1,500名になります。
創業が1999年で、フォーチュン誌「最も働きがいのある企業100社」に選ばれ、2009年にアマゾン傘下の企業となりました。
アマゾン傘下になるものの、ザッポスのコアバリューを維持したまま、独立した経営を行っています。
2014年からHolacracy Oneの支援のもと、Holacracy(ホラクラシー)を導入しています。

2 ホラクラシー導入前のザッポスの特徴

ザッポスの皆さんへのお話を聴く中で整理した、「ホラクラシー導入前のザッポスの経営サイクルの特徴」を示した図を以下に記載しています。

10個の「コアバリュー」(後述)を軸に、まず、コアバリューに強く共感しフィットする方を社員として採用し、入社後も丁寧にトレーニング機会を設けることをとても大切にされています。そのため、特徴の1つ目として、コアバリューと社員さんとの強い繋がりが挙げられます。

【実践メモ:10個のコアバリュー】
No.1 サービスを通して、WOWを届けよう
No.2  変化を受け入れ、変化を生み出そう
No.3  楽しさとちょっと変わったことを創り出そう
No.4  間違いを恐れず、創造的で、オープン・マインドでいよう
No.5  成長と学びを求めよう
No.6 コミュニケーションを通して、オープンで正直な人間関係を育もう
No.7 前向きなチームをつくり、家族のような気持ちをお互いに持とう
No.8 より少ない投資で、より多くを生み出そう
No.9 情熱と強い意志を持とう
No.10 謙虚であろう

次に、「組織構造や仕事の仕方」としては、役職の階層構造を残しながらも、ボトムアップ的に意見が言いやすい風土がそもそも存在していたという声が大半でした。上記の図において、緑の丸が意見の言いやすい風土を、背景の赤い三角が役職の階層構造を示しています。

特徴的だと感じたのは、重要な情報源として、仕事の結果やプロセス上の重要な指標を見える化・共有化して、頻度の高いフィードバックが周りやすい工夫をしていることが挙げられます。これが特徴の2つ目です。
例えば、コールセンターの対応に関する重要な指標を複数掲載している等です。

コアバリューを軸に、人を大切にした経営をしながらも、勘所となる行動の結果である指標をしっかりと見える化・共有化し、経営にフィードバックされる循環を有していたことを感じました。経営の定石をしっかりと実施していることが鑑みられます。

実は、上記の2つの特徴が、ホラクラシー導入において、効果を発揮することになってきます
逆に、これらの2つの特徴が十分でない場合には、ホラクラシー導入の前にプレとして、一定期間を確保し、実施しておくことが経営としては望ましいと私は考えています。

3 ホラクラシー導入による変化

同じく、ヒアリングを通じて整理した、「ホラクラシー導入後のザッポスの経営サイクルの特徴」を示した図を以下に記載しています。

導入前との大きな違いは、「組織構造や仕事の仕方」の部分で、「役職の階層構造を残したボトムアップ型」から「役職の階層構造を無くした自主運営型」への変化となります。

自主運営型実現の具体的な手段として、Holacracy Oneの支援のもと、Holacracy(ホラクラシー)という仕組みの導入をザッポスでは決定しました。ホラクラシー自体の概要はこちらのレポートをご参照下さい。

自主運営型への変化が求められた背景としては、大体以下のような要因となるようです。全体的には意見の言いやすい組織ではあるものの、少しずつ、意見が言いにくい雰囲気や、その兆候が感じられるようになってきた。また、承認を求める行為の増加や、合意形成に時間が掛かってくるようにもなってきた。

そのため、今後の発展を考えた際に、試行錯誤の末、役職の階層構造が生み出している事象について、根本的な解決を実行することを決断したと理解しています。

その手段として、2014年にホラクラシーが選択され、部分的な導入を経て、全社的な導入が開始されました。ホラクラシーの導入においては、社内的に、社長含めて役職自体が無くなり、組織の目的を実現するために、ロール(役割)という具体的な仕事の内容を設定することから始めます。

ホラクラシーにおいては、意思決定は各ロールに委ねられており、その意味において、業務執行上の自由度が増す仕事の仕方になっています。これを実現するために、ロールの中に、リードリンクという役割があります。ホラクラシー導入後、トニーさんもザッポス全体の社長から社内的にはリードリンクとなりました。

ホラクラシーの導入において、このリードリンクという役割がとても重要で、成否を握る要因となります。そのため、下記に少し、リードリンクについて記載しています。

【実践メモ①】
リードリンクは、組織全体の目的実現のために、組織の方向性や重要指標の共有、事業の優先順位、資金の事業への配分、ロールへのメンバーのアサイン等を担当するロールなのですが、以前のように、指示命令をすることは役割として認められていません。

そのため、リードリンクには、他のロールが組織の目的実現のために自主決定できるような環境を創り続けることが求められています。

上記のことは、まさに、私がトニーさんに、「今、トニーさんにとって、ザッポス内で最も大切な役割は何ですか?」とお聞きした際に、「ザッポスでのあらゆる声と繋がり、理解し、イノベーションや自由が自然に生まれる、あらゆる環境をつくり続けること」とトニーさんがおっしゃったことと繋がっていました。

リードリンクという役割は、とても難しく、人に依る部分はありますが、習熟するのに数年は必要な役割だと、私自身の経験も踏まえて感じています。その役割を、5年弱実施されているトニーさんから出てくるメッセージは、ザッポスという組織に向いていますし、そこで働くメンバー全員のことを本当に思ったメッセージに聞こえてきます。

また、導入前からのザッポスの特徴である「コアバリューとメンバーとの強い繋がり」は、リードリンクとして、メンバーをアサインする際に、「コアバリューとの強い繋がり」をメンバーが有していることで、組織目的の実現に向けたアサインを行いやすくなってくる利点があります。

同様に、2つ目の特徴である「重要な指標の見える化・共有化」については、まさに、リードリンクの役割である「重要指標の共有」であり、既に実施していた素地を組織的に有していたため、このこともホラクラシー導入上の利点となります。

つまり、ザッポスは、ホラクラシーという新しい仕組みを導入しながらも、以前から有していた2つの特徴、「メンバーとコアバリューとの強い繋がり」、「重要な指標の見える化・共有化」によって、変化の変数を減らすことに成功しており、導入の不確実性をある程度下げることが出来ていたと考えています。

このことは、今後、組織の自主運営を高めていきたい組織の皆さまにとっても、知見となる内容であり、既に取り組んでいる組織の皆さまにとっては非常に勇気をもらえる内容でもあると感じています。

その他、ホラクラシーの導入による主な効果や声は以下のようなものでした。

・ホラクラシーはザッポスの文化を壊していない。机は今まで通り、とても賑やか!
・ホラクラシーによって、業務執行における自由度が、導入前以上に向上した。
・ホラクラシーのミーティングはとても効果的で、仕事がとてもやりやすい
(ロールを見直す構造的な進化を可能にする会議と、運営面でのベクトルを合わせる会議がある)

・仕事の役割がとても明確で、誰に何を頼めるか等が分かりやすく、仕事がスムーズ
・誰もが(役職の有無ではなく、性格が外向的・内向的関係なく)仕事に自分を注ぎ込むことができる
・誰もが「不安に思ったことや、違った意見をテンションという形で伝えることができ」、そのテンションを聞いてもらえ、協力してもらうことが可能。

【実践メモ②】
ホラクラシーにおいては、テンション(目的実現がされた状態と現実とのひずみ)という形で、自分が担当しているロール(役割)に関する意見や不安なこと等を誰もが伝えることが出来ること、及び、聞いた人は相手のニーズを理解しサポートすることがルールとして設定されています。

実は、このテンションに寄り添う仕組みが、上記の主な効果を可能にしている大きな要因となります。ザッポスでは、コアバリューの具体的な行動として、テンションに寄り添うことがホラクラシー導入後に追記されています。

4 ティール組織というレンズからのザッポス

ザッポス自身がティール組織を直接的に目指しているわけではないため、あくまで、ティール組織というレンズで見ると、このような繋がりが見えるというものを記載しており、ティール組織の理解の促進にお役に立てばと思っています。
ティール組織については、こちらのレポートをご参考下さい。記載にあたっては、以下のティール組織の3つのブレークスルーに基づいて記載しています。

①進化する組織の目的
②セルフマネジメント(が出来る仕組みを有している)
③全体性(個人としての全体性の発揮)

4-1 進化する組織の目的

ザッポスは、進化する組織の目的として、「WOW(ワォ!)を生き、WOWを届ける」としています。これは、コアバリューにも含まれています。

日々の様々な取り組みによって、この組織の目的が実現され続けることで、メンバーにとって、WOWを生き、WOWを届けるという意味が日々、進化し続けていることを感じます。

ザッポスでは、上記を実現するために、以下の3点の工夫をしています。
① メンバー自身の目的と組織の目的が繋がり合う状況を作る(採用・育成プロセスが特に重要)
② 組織の目的と繋がる仕事の役割を作る(ホラクラシーを活用することで実現)
③ メンバーが仕事を行う際の自由度を高める工夫をする(ホラクラシーを活用することで実現)
(選んだ仕事を行う際の自由度、新たな仕事を提案する自由度等)

結果、仕事を実行した後のアウトプットは、組織の目的を実現するものであり、組織の目的に共感している本人にとっても、組織の目的への確信が高まっていくサイクルが生まれます。このことが全社員で生まれているため、組織の目的が全社員の意識の中で、進化し続けることが可能になっています。

4-2セルフマネジメント(ができる仕組みを有している)

ザッポスでは、ホラクラシーを導入することで、仕事において、セルフマネジメントを阻害する下記のような要因を導入前にも増して、無くすor発生しても解決することが出来ています。

「誰がどんな仕事をしているか分からないし、自分はどこまでして良いのか?」
「上司にこのアイデア(or悩み)を言っても、聞いてもらえないだろうな…」
「どういうプロセスで新規投資や給料等が決定されているのか見えないな…」

「結果指標だけではなく、結果に至るまでのプロセスの指標が見えていない…」
「本当に価値のあるプロセス上の重要指標は何なのだろうか…」

つまり、ホラクラシーという仕組みの導入によって、仕事の役割の不透明性、役職による意見交換のしにくさ、意思決定プロセスの曖昧性や不納得、重要指標が見える化されていない等の状況が、発生しない、もしくは発生しても解決するプロセスを有しています。

ホラクラシーとは、あらゆるメンバーにとって、仕事のセルフマネジメントが可能となるための基本的なOS(オペレーティングシステム)であり、上記のような、セルフマネジメントを阻害する要因を発生しないor発生しても解決することが可能になります。

ザッポスにおいては、ホラクラシーを、ザッポスにフィットする形で既に応用していて、誰もがセルフマネジメントができる環境がそこにあり、日々、進化し続けています。

つまり、ザッポスにおいて、ホラクラシーとは、組織の目的を実現するための仕事を行う手段であり、仕事のセルフマネジメント環境の水準を上げることを可能にしています。

4-3 全体性(個人としての全体性の発揮)

①能力の発揮についての全体性
ホラクラシーを導入していることで、メンバーは多様な仕事にチャレンジをすることが出来ます。これにより、多様な能力を育むことが出来る機会があります。

ザッポスでは、メンバー各自が、プライマリーロールと言って、メインで行う一定の仕事の固まりを持っています。また、プライマリーロールとは別に、能力の発揮を勘案し、異なる仕事にチャレンジすることも可能な環境があります。

全ての仕事が組織の目的実現と繋がっているため、どの仕事をしても、組織の目的実現が可能になっています。尚、給与については、プライマリーロールの市場相場を勘案した給与が設定される独自の仕組みを運用しています。

②心理的な全体性
ザッポスでは、心理的に不安になったときや辛いときに、頼ることができるベースの人間関係をそもそも大切にしており、さらに、そういったことに寄り添い、解決するために伴走してくれる役割の仕事も存在しています。

とてもユニークなロールで、ザッポスワールドサービスといって、組織内のメンバーの悩みや困り事を聞き、助け、解決のための糸口を一緒に考えるロールもあります。社員全員が家族のように、互いに助け合うという、ザッポスが大切にしている想いがここにあります。

5 ザッポスのこれから

トニーさんに質問させて頂いたときに、トニーさんの最も重要な仕事は何ですか?とお聞きしました。

トニーさんは、「ザッポスでのあらゆる声と繋がり、理解し、イノベーションや自由が自然に生まれる、あらゆる環境をつくり続けること」とおっしゃりました。

これはトニーさんの1つの役割であるリードリンクとして、最も重要な仕事であると私も感じました。

また、「フューチャービジョン」についても、「メンバ一ひとりひとりのビジョンが実現される、コレクティブなビジョンを実現していく組織でありたい、そのための環境を作っていくのが自分の仕事である」ともおっしゃっていました。

ホラクラシーの運用においては、リードリンクにアサインされる方の意識の発達段階がとても大切になってくるのですが、トニーさんとお話しをしていると、リードリンクとして必要なことを備えておられることはもちろんのこと、少し達観されている感じも持ちました。

もちろん、ホラクラシー導入当初は、リードリンクとして、これまでのマネジメントの方法との違いに苦労されたこともあったと思いますが、導入すでに5年、リードリンクとしてのトニーさんがそこに居たと感じました。

このことは、規模は違いますが、同じくリードリンクとして仕事をしている私にとって、とても勇気を頂きました。

現在、ザッポスの社員数は1,500名程度。1,500名がさらなる幸せな人生を送ることができるように、ザッポス自体がトニーさんの言葉で言うと、「Evolutionaryな、Self-organization」に向かっていることを強く感じました。

6 まとめ

以上、簡単ではありますが、ザッポスの中で起きていることを、ホラクラシー導入の前後とティール組織に繋げながら記載させて頂きました。

ザッポス自体は、コアバリューに共感した人々WOWを生き、WOWを届けこと最大の焦点を当ててお仕事を進めている会社で、そのための手段として、上述したホラクラシーという仕組みを活用しています。

ザッポスがホラクラシー導入前から持つ素晴らしい特徴を保ち、進化させながら、新しい仕事の仕方にチャレンジし、一定の成果を収め、更に次のステージへと歩まれている姿は、私達に学びと勇気をくれるのではないかと感じ、今回、レポートを記載させて頂きました。

読んで頂いた皆さま方の日々の実務のご参考にして頂けましたら、とても嬉しく思います。

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